沿革

04
現在の三井文庫

新三井文庫の事業

新三井文庫の当初の陣容は、理事長に佐藤喜一郎、館長に柳川昇、主任研究員に中井信彦が就任し、このほか研究員4名(のちに5名に増員)、司書2名ならびに事務職員で構成された。その事業は、①旧三井文庫引継史料の整理と公開、②関係会社諸史料等の収集、③新たな「三井事業史」の執筆・刊行、④研究雑誌の発刊、⑤分類目録の作成、などにわたった。

  1. ① 旧三井文庫引継史料や新規受入れ史料は、公開可能なものから順次整理のうえ公開していった。寄託史料についても、可能な史料については閲覧ができるように史料所有者と交渉した。史料の公開促進は、財団法人設立認可時の重要な要件であり、定款にも明記されていた。従来門外不出扱いで外部研究者には閲覧が許されなかった三井家の家政や事業の史料が公開された意義は大きく、近世・近代の社会経済史研究に多大な貢献をすることになった。
  2. ② 関係会社諸史料の収集(寄贈・寄託)は、発足後から年次計画を立てて取り組まれ、三井文庫所蔵史料を補完・拡充するとともに、関係会社史料の散逸を防ぐ役割も果してきた。
  3. ③ 「三井事業史」は、旧三井文庫からの懸案であったが、新三井文庫が発足して間もなく、新たな陣容で一から立案・計画された。名称は、当初「本社史」とされたが、のちに「三井事業史」へ変更された。昭和46年(1971)から史料篇の刊行を開始し、昭和55年(1980)までに史料篇5冊、本篇3冊(17世紀の創業から20世紀の大正時代まで)が刊行された。その後、平成6年(1994)に、三井合名会社の改組合併までを扱う本篇1冊が、太平洋戦争期から財閥解体までを扱う本篇1冊が平成13年(2001)に刊行され、史料編5冊、本篇5冊の『三井事業史』が完結した。
  1. ④ 再発足にあたり、力点を入れた活動の一つが、研究活動である。三井文庫研究員等の研究成果を公表する場として、発足後間もなく研究雑誌の発刊が企画された。昭和42年(1967)3月、その創刊号が『三井文庫論叢』の名で発刊され、以降、毎年1回発刊されている。その研究成果は、歴史学界において、高い評価を受けている。
  2. ⑤ 分類目録の作成も再発足後の重要な課題であった。三井家編纂室・旧三井文庫時代に作成された「三井家記録文書目録」は受入れ台帳としての性格が強く利用には不便であった。そのため、分類目録作成事業を進め、平成5年(1993)の「一件書類目録(京本店等原所蔵分)」を皮切りに、「一件書類目録」「主要帳簿目録」「式目類目録」を、これまでに13冊刊行した。なお、現在、目録のデジタル化とそのWEBサイト上での公開準備を進めている。

三井文庫別館の開館

昭和59年(1984)には、三井家伝来の美術品等の寄贈を受けて、文化史研究部門(三井文庫別館)を併設し、専門の学芸員等を置いた。翌年に開館式を挙行し、国宝・重要文化財などの名品を展示した「開館記念特別展」を開催した。その後、定期的に特別展を開催するとともに、日本美術の研究に取り組んだ。

三井記念美術館の開館

同部門は平成17年(2005)10月に日本橋の三井本館に移転し、三井記念美術館が開設され、平成27年(2015)に10周年を迎えた。収蔵されている美術品は、日本・東洋の絵画・茶道具・工芸品が主で、江戸時代以来数百年におよぶ三井家の歴史のなかで収集され、今日まで伝えられた、日本でも有数の貴重な文化遺産である。

公益財団法人化

三井文庫は発足以来、文部省(文部科学省)から特に公益に資する機関としての認定を受けてきた(「特定公益増進法人」など)。

平成20年(2008)に公益法人制度改革三法が施行されたことにともない、三井文庫も法人としての形態を改めることになり、内閣府より公益財団法人の認定を受け、平成22年(2010)4月1日より法人名称を「公益財団法人三井文庫」に変更した。

史料の公開(利用)

所蔵史料の公開は業務の根幹の一つで、史料は整理でき次第、順次公開することを原則としている(寄託史料の一部などは非公開)。

史料公開の開始は、昭和41年2月15日で、この時点で閲覧可能だったものは、現在の「三井家記録文書」(本号、別号、続号、追号)の大部分(追号の後半部分は後に追加登録)と、旧三井文庫から引継いだ刊本・地図・錦絵などを含む参考図書類であった。また、それらに少し遅れて昭和43年11月から、「三井銀行会社資料」「三井物産会社資料」の、二史料群を公開した。その後に公開した史料を年代順に列記すると、次頁の表の通りである。なお、利用頻度の高い史料については、複製を作成し、原本の損傷を防いでいる。

史料の展示

所蔵史料の内容を紹介するために、適宜テーマを設定し、史料展示をおこなっている。これまで、以下の展示会を三井文庫内でおこなった。

第1回(昭和41年)「江戸時代の道中絵図」
第2回(昭和52年)「三井家の家法と家憲/三井家大元方の記録文書」
第3回(昭和55年)「近世三井家における記録文書の作成と保存」
第4回(昭和61年)「近世越後屋の奉公人史料展」
第5回(平成5年)「没後三百年 三井高利展」

なお、三井文庫の紹介のために昭和61年に「企業史料の宝庫」というタイトルのビデオを作成した。

史料名 公開年
井上侯爵家より交附書類 昭和55年11月~
A番号資料 昭和55年11月~
川村貞次郎資料 昭和58年6月~
井上侯爵家より交附書類中の「書簡」 昭和59年6月~
特番号資料 昭和60年9月~
中井三郎兵衛家資料 昭和61年10月~
高陽文庫 昭和62年7月~
殊番号資料 昭和62年7月~
三井物産資料のうち諸帳簿類 昭和63年8月~
台湾糖業調査資料 昭和63年8月~
三井銀行追加資料 平成元年8月~
高陽文庫追加資料 平成元年8月~
三井物産資料のうち「業務総誌」など 平成2年10月~
北三井家資料(新規寄贈分) 平成3年11月~、平成14年11月
三井物産資料のうち「取締役会決議録」など 平成4年10月~
三井物産契約書類 平成5年10月~、平成6年10月~、
平成7年10月~、平成8年10月~(4回に分割)
新町三井家古記録 平成9年11月~
新町三井家資料 平成10年10月~
小石川三井家資料 平成11年10月~、平成12年10月~(2回に分割)
南三井家資料 平成13年10月~
永坂町三井家資料 平成15年11月~
北三井家資料(旧三井文庫引継分) 平成16年11月~、平成17年11月~(2回に分割)
三井物産資料のうち「廻議綴」など 平成18年11月~、平成19年11月~(2回に分割)
戦前期海外経済調査資料 平成20年11月~
三井合名会社資料 平成21年11月~、平成22年11月~、平成23年11月~(3回に分割)
三井総元方資料 平成24年11月~
三井本社資料 平成25年11月~、平成27年11月~(2回に分割)
傘下会社資料 平成26年11月~