天保四年分大坂金蔵勘定帳
「三井文庫史料私の一点」として、公益財団法人三井文庫所蔵の「天保四巳年分大坂御金蔵金銀幷灰吹銀納払御勘定帳」(D922-58)を挙げたい。2013年・14年発行の『三井文庫論叢』第47号・第48号に、近世経済史料研究会によって史料紹介「天保期幕府財政の新史料(一)(二)」として連載されている。私は論叢の寄贈を受け、同文庫を訪れ原史料の閲覧・撮影を行った。この史料は2010年6月大阪の古書店から購入されたとのことである。筆者も原稿化を進めるうち、同文庫の方々の情報から、年次の異なる「享和二戌年分大坂御金蔵金銀井灰吹銀納払御勘定帳」1冊が2014年広島県立文書館に寄贈されたことを知り、15年同館を調査、撮影を行った。
この2冊は年次こそ異なるものの、全く同じ性格の史料で、大坂町奉行・大坂御金奉行・大番ら6人が勘定を仕上げて幕府勘定所に提出し、老中・若年寄・勘定奉行・勘定吟味役・勘定組頭が奥書・奥印して大坂町奉行らに渡したもので、大量の数字記載には計算の誤りが全くなく、原史料正本の重みを持つ。納方は畿内筋以西の幕領年貢類を主とし、ほかに御用金や返納金銀・払米代銀など、渡方は大坂・京都の諸経費のほか在番加番合力金や助成金銀で、差し引きの剰余も多く、江戸金蔵への為替金送付に三井組も関与している。
江戸幕府財政史料としては他にない優れた史料で、その分析の詳細は拙稿「大坂金蔵の性格と収支」(『三井文庫論叢』第49号)に譲る。また同文庫参考図書の中に「享和三亥年分大坂御金蔵金銀拝借帳」(D922-41)があり、その分析は「大坂金蔵拝借帳について」と題して論叢第50号に掲載させて頂いた。
併せてこの三点の史料は、筆者編著『江戸幕府大坂金蔵勘定帳』と題して、2017年八木書店から史料纂集の1冊として刊行予定である。
(東洋大学名誉教授/日本近世史/江戸幕府財政史/政治史)