06 高利の子供たち
高利の死と息子たち
高利には多くの子がおり、特に息子たちは、父を助け活躍した。元禄7年(1694)、高利は73歳で没したが、息子たちは結束し、共同での事業経営を続けた。彼らの業績や人物は、「→高富草案」や「商売記(→04 現金掛け値なし)」に詳しい。
高平(1653~1737)長男、北家2代。京都の仕入店を任され、粗末な格好で奔走、人々の信用を得た。仕入値を抑え、江戸での安売りを支えた。人格者であり、激しいいやがらせにあった時期(→03 江戸進出、05 幕府御用の引き受け)にも、同業者以外からの評判はよかったという。父の没後は一族をまとめ、50歳で隠居したが、兄弟で最も長く生き、晩年に家訓「宗竺遺書」(→09 家訓「宗竺遺書」)を著した。細心な反面、大様で人の意見をよく聞き、人の善悪をよく見分けたという。彼がはじめ名乗った八郎右衛門は、三井を代表する名となった。(→高利の長男・三井高平)
高富(1654~1709)次男、伊皿子家初代。早くから江戸の諸店を支配。病気がちながら覇気にあふれ構想力があり、商売一筋の生活で、新商法を工夫し、駿河町移転でも活躍。兄・高平の隠居後は京都で事業を指揮したが急逝し、高利11男・高勝が跡を継いだ。
高治(1657~1726)3男、新町家初代。若い日の病身を克服し、京都で仕入れに奔走。父・高利の没後、その新町の居宅を受け継ぐと、隣接する京両替店を差配、丁寧な仕事ぶりで大いに発展させた。正直で兄たちには従順、一つのことに集中するたちであったという。
高伴(1659~1729)4男、室町家初代。高富の後、江戸に常駐し、江戸両替店を発展させた。実直、丁寧、厳格な性格で、幕府の御為替御用(→05 幕府御用の引き受け)の祖と評される。複雑な帳簿の体系も、彼の工夫という。
高好(1662~1704)6男。贅沢を好んだが、店頭販売で他を圧する手腕を発揮し、のち京都で仕入に従事。やや若く没し、高利10男・高春が養子となって小石川家を立てた。
高久(1672~1733)9男、南家初代。実直で物に動じない頼もしい人物で、物事をよく見極めるたちであった。幕府御用の収支を大きく改善。兄たちと年が離れ、次世代の一族の中心として期待されたが、長兄・高平より早く没した。
三井十一家
高利の子孫(三井同苗という)は、後に11もの家をなし、その全体で資産と事業を共有するのが伝統となった。上記の息子たちの6家を「本家」という。これに続いて女系の「連家」5家があった。初代は高利長女千代の夫・孝賢(松坂家)、高利孫みちの夫・高古(永坂町家)、高平4女たみの夫・小野田孝俊(小野田家)、高平孫りくの夫・家原政俊(家原家)、高利4女かち(長井家)。松坂家と永坂町家は松坂の名家となり、都市行政にも加わった。他の9家は京都に居宅があった。
幕末維新期には小野田家・家原家・長井家が分離された。明治26年(1893)、これを引き継ぐ3家が立てられ、11家に復した。北家から出た高尚の五丁目家、小石川家から出た高明の本村町家、伊皿子家出の高信の一本松町家である。
宝永4年(1707)ごろ作成。高利の次男・高富による家法の草案。清書本が一部のみ伝わった。ごく一部に兄の高平が記した部分がある(→引用記事を見る)。内容は高利の祖父・高安(→02 松坂の高利)以来の系譜から始まり、一族の歴史から事業の方針、財産共有制まで、多岐にわたる。享保7年(1722)に成立し、以降の規範となった家訓「宗竺遺書」(→ 09 家訓「宗竺遺書」)は、この内容をうけつぎ発展させたもの。不況下にまとめられた「宗竺遺書」とは異なる部分が多々みられ、事業や経営思想の変遷を知る上でも興味深い史料である。
高富草案(たかとみそうあん)引用部分
現代語訳
高平いわく、高富は数年の江戸勤務の間に、駿河町の店で現金売りを始め、その後は両替店・綿店など江戸の諸店を残らず取り立て、(重要な名である)「次(治)郎右衛門」を名乗る初めであり、江戸の諸店の中興の祖である。私(高平)の心に叶ったので、隠居後はすべて高富に任せて指揮させたところ、人をよく見知ってそれぞれ指示をするので、江戸・京都・大坂の諸店は残らず一致し心服して、日を追って繁盛し、悪人も出ず、大人数の三井家がよく治まった。すべて高富の指揮が良かったためである。三井家に対し大功をあげた者なので、子孫に知らせるため、高平これを記す。
記事について
高利の子供たちの業績と人物を記した部分から、次男・高富についての記事。ここだけは高富の原文に、長兄・高平が書き足している。
晩年の姿。高利を初代とし、高利・高平の嫡系である北家は「総領家」とも称され、常に重きをなした。
高利の遺書(→01 「元祖」三井高利)と同時に作られた。長兄・高平あてに兄弟たちが出した誓約書で、父・高利の没後も、高平をその代わりとして仰ぎ、資産・店舗を分割せず、従来通りに事業を続けることを誓っている。本来は一つづきのものを分割して示した。