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三都をまたにかけた対幕府交渉

高槻 泰郎
三都をまたにかけた対幕府交渉
御買上米一巻留(続391-1)
三都をまたにかけた対幕府交渉

近世期の三井家史料について、その特徴をひとつ挙げるとすれば、大都市をまたがってのやり取りが観察できるところにある。江戸、京、大坂、松坂に店を構え、各地に買宿を設けた三井家のヒト・モノ・カネ・情報の移動が、全国規模で展開することは当然であるが、江戸幕府の経済政策との関わりについては検討の余地が残されているように思う。そのことを実感した史料が「御買上米一巻留」(続391-1)である。大坂両替店作成・保管になる同史料は、文化3年(1806)に、米価を引き上げることを目的として、江戸幕府が大坂三郷を対象に実施した買米に関する一件留めである。

大坂三郷惣年寄を通じて買米への参加が三井家に指示され、最終的に3千石の買米を請け負うに至るまでの経緯は、拙稿(『三井文庫論叢』第46号)で紹介した通りであるが、鴻池屋善右衛門などの豪商が、軒並み1万石以上の買米を命じられたのに対し、三井家の負担高が3千石で済んだ背景には、周到な根回しがあった。

江戸・京・大坂の店々が、本店一巻・両替店一巻の垣根を越えて緊密に連携し、政策の実施主体である大坂町奉行所を相手取って巧妙な交渉を繰り広げる様子が、右の史料には生々しく記されている。また、京本店が本件の意思決定主体となっていることが確認でき、三井家総体としての意思決定のあり方を観察する上でも好適な史料と言える。同種の史料は、他の経済政策についても確認できるため、今後の研究展開が期待できる。

なお、続391-1から続391-7まで一括で簿冊化されているため、右の史料1点を閲覧請求しただけで、7点(いずれも買米関連史料)が全て閲覧できる。こうした「おまけ」がついてくるのも、三井文庫に訪問して史料を閲覧する楽しみの一つである。

(神戸大学経済経営研究所)

三都をまたにかけた対幕府交渉
御買上米一巻留(続391-1)
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