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資料への詫び状

小路 行彦
資料への詫び状
芝浦製作所「営業報告書」
資料への詫び状

三井文庫には、『技手の時代』(日本評論社、2014年)を執筆する際に、芝浦製作所[各期]『営業報告書』の利用で大変お世話になったが、実は三井文庫との付き合いはこの時が初めてではない。最初の出会いは、大学院を終えて釧路に赴任して直ぐの頃、当時札幌の大学におられた市原博先生から誘いを受けて、炭坑の資料の整理に汗を流した時である。山間の古いホテルに集まったのは、三井文庫から来られていた2人と道内4人の研究者の総勢6人であった。2人の三井文庫職員のうち、御一人はすぐ大学に職場を変えられたが、現在も在籍の吉川さんからは、私が芝浦の資料を利用する時に声をかけていただいたように記憶している。市原先生もこの資料を利用していると教えられ、不思議な縁を感じたものである。さて、マイクロ化された炭坑の資料は、その一覧を頂きながら今日まで利用できていない。何処からか叱咤の声が聞こえてきそうである。

『技手の時代』の骨格をなす発想は、芝浦製作所の資料に依拠している。私は何時の時代も生産という現場は、もっとも仕事に精通している者が形式的にはともかく実質的には権限を持たざるを得ないはずだと「信じて」いる者だが、その信念に合致した「事実」がその資料から発見できて興奮したことを覚えている。職工は身分制度に押し込められていたという通念を解体できるのではと考えたものである。その後何年もかかって、他の産業での事例にも拡張して本にまとめることができたのは、三井文庫を訪問してから十数年経過していた。編集を担当して頂いた武藤誠さんからは、賞を取りましょう、取れますよと言って頂いたが、その時の私は、いや無視されると思いますよ、と答えたものだった。その予想が半分外れたのは望外の結果であったが、評価の声が聞こえてくるのは前編ばかりで、三井文庫の資料を使った第13章「芝浦製作所-技術者処遇と組織設計」を含む後編はあまりの意外さからか、予想どおりの評価である。自分の非力に資料には済まない気持ちで一杯である。

※ この史料は、三井文庫が複写収集した「東京芝浦電気社史編纂史料」に含まれます。閲覧には(株)東芝の許可が必要です〔三井文庫注〕。

(釧路公立大学)

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芝浦製作所「営業報告書」
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