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私にとっての「諸用留」

五味 玲子
私にとっての「諸用留」
長崎諸用留(本767)
私にとっての「諸用留」

私が一点として取り上げたいのは京本店の業務記録「諸用留」(本759~本772)である。「諸用留」2冊、「会所諸用留」6冊、「長崎諸用留」6冊、享保2年(1717)から明治3(1870)年という約150年間の業務記録であり、これまでも多くの研究者に活用されてきた。近世の三井越後屋を研究するうえで使用頻度の高い史料のひとつである。

「諸用留」は文化3年(1806)からは「長崎諸用留」と分割され、名を改められたほど多くの長崎貿易関連の事項が記録される。長崎貿易制度に関する記録、根証文や起請文などの証文類、貿易取引に重要な書状のやりとりが残されている。そこから読み取れるのは三井越後屋長崎方の業務実態だけではない。京都長崎問屋をはじめ、三井越後屋入札名義中野用助、宰領や糸荷廻船など、三井越後屋の周辺で長崎貿易に携わった沢山の人びとの様相、また当時の長崎の世相までも窺い知ることができる史料である。

私の関心は長崎貿易と国内商業を結ぶ国内ネットワークにある。三井越後屋と、長崎の中野用助家を主軸とした、京都・長崎間を結ぶ商業ネットワークの様相を明らかにしていきたいと考えている。そんな中で「諸用留」は、私にとって向き合うたびにいつも新しい知見を与えてくれる大切な史料である。また三井文庫所蔵の厖大な長崎貿易関係史料を見るうえで迷ったときには羅針盤となって導いてくれる史料でもある。私は今後も引き続き「諸用留」を、私なりの視点で読み解いていきたい。これから彼らが私に何を語りかけてくれるのか楽しみである。

(千葉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程)

私にとっての「諸用留」
長崎諸用留(本767)
私にとっての「諸用留」