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最後の「万世江戸町鑑」

加藤 貴
最後の「万世江戸町鑑」
万世江戸町鑑(C211-133)
最後の「万世江戸町鑑」

三井文庫の参考図書中に、寛政12年(1800)版「万世江戸町鑑」(C211-133)がある。江戸の市政名鑑ともいうべき「江戸町鑑」の中で、万世系が最も長く刊行され続けており、享保14年(1729)に「万世町鑑」横小一冊本が刊行され、延享4年(1747)には「万世江戸町鑑」竪小二冊本として大幅な改正・増補が行われ、さらに文化4年(1807)に、内容に変わりはないが、より見やすく改正した「増補改正万世江戸町鑑」竪小二冊本が刊行された。「江戸町鑑」は、毎年のように内容を改訂して出版されている。しかし、「万世江戸町鑑」については、文化3年まで刊行された可能性は捨てきれないものの、現在までに確認した限りでは、寛政12年版が最後のもので、三井文庫以外では所蔵されておらず、この時点での町奉行所与力・同心や名主に関する情報を提供してくれる貴重な史料といえる。また、書き込みや印記からすると、伊勢松坂大工町の山住八郎兵衛が購入し、江戸での営業活動の便宜としたものと思われる。その後、時期は未詳だが新町三井家の蔵書となり、紆余曲折を経て、現在では三井文庫に収蔵されている。「江戸町鑑」ではこのように伝来をある程度確認することができるものは少なく、その意味でも貴重である。『江戸町鑑集成』全5巻(東京堂出版、1989~90年)に、この寛政12年版「万世江戸町鑑」を、諸般の事情から収録できなかったのは残念なことであったが、これを機会に多くに人に活用されることを願っている。

(早稲田大学教育・総合科学学術院非常勤講師)

最後の「万世江戸町鑑」
万世江戸町鑑(C211-133)
最後の「万世江戸町鑑」