史料をみる人、みせる人
地下鉄丸ノ内線茗荷谷の駅の近くに江戸時代、キリシタン屋敷があった。三井文庫ではこの屋敷の図面を所蔵している(「切支丹山屋敷図」C827-28)。以前から遺跡発掘やキリスト教関係の方々などの写真利用は多い。同資料を用いた代表的な研究としては中井信彦「切支丹山屋敷図について」(『史学』23巻4号、1949年、三田史学会刊)がある。
昨年「刊行から五〇年-遠藤周作『沈黙』と長崎」展での写真使用の関係で原資料の箱をひさしぶりに開けた。よくみると、この木箱の中には絵図以外に、上記の中井氏の論文抜刷と以下の写真プリントが収められていることに気づいた。
・この場所ゆかりのシドッチ神父の遺物といわれる「親指の聖母」の絵の写真。
・『通航一覧』所載とある小石川切支丹屋敷之図の写真。
・屋敷図とともに写る2人の男性の記念撮影写真(数点)。
・「江戸の小日向切支丹屋敷」絵図の写真。
最後の「江戸の小日向切支丹屋敷」絵図の裏に、「Mario Marega 1962」と記されており、一人の紳士が、伝道のかたわら日本学・キリシタン史研究に心血を注いだことで知られるマリオ・マレガ神父(1929~1974年在日)であることがわかった。もう一人の男性が気になっていたところ、最近になって、長く三井文庫をご利用の研究者の方から山口栄蔵氏であるとご教示いただいた。しかも、場所は品川区戸越の文部省史料館(戦前の三井文庫があったところ)とのこと。山口栄蔵氏は旧文庫以来の職員で、戦後の三井文庫活動休止中は文部省史料館の職員であり、現在の三井文庫設立に携わった方、三井家史料を何より一番大事に守ってきた方である。
戸外でマレガ神父と記念撮影している何葉かの写真は、史料をみたいと訪れた方にこんなに良いものがあるのですよ、というような山口氏の表情が印象的。現在の閲覧室でこうした気持ちになることが私にもある。雲の上の大先輩が少し身近に感じられた。このような史料をみる人、みせる人との人間模様は古今東西変わらないのかもしれない。これからもいろいろなところでこうした場面が繰り広げられるのであろう。
(三井文庫司書)