三井物産の中国市場における米材商売-『三井物産支店長会議議事録』-
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北米太平洋沿岸のオレゴン州、ワシントン州、ブリティッシュ・コロンビア州で製材される米材の輸出国(地域)は、第一次大戦以前には豪州、中国、イギリス、ニュージーランド、南米、日本、ヨーロッパ大陸、インド、フィリッピンの順であったが、第一次世界大戦後の1921、22年には日本への輸出が急激に増え、日本が最大の米材輸入国となった。日本以外では、豪州、中国、布哇、南米西岸、欧州などに輸出されており、「オレゴン、パイン」と呼ばれる米材は、いわゆる環太平洋交易圏における典型的な商品の一つとなった。この米材をめぐって、三井物産は、中国市場で「ダラー・カンパニー」「チャイナ・エキスポート・インポート・カンパニー」などの米系商社と激しい競争を展開していた。
三井文庫所蔵の『三井物産支店長会議議事録』には、こうした米材をめぐる商社間競争の実態が浮き彫りにされていて興味深い。たとえば、1917年の同議事録では上海支店長の藤村義朗が「「オレゴン、パイン」商売ハ是非之ニ力ヲ入ルヽ必要アリト考ヘ、上海ニ於テハ其取扱ノ如キモ木材部ニ移シタ」と発言しているように、三井物産は上海市場で米材商売に積極的な姿勢をみせ、米材商売を木材部扱いとした。さらにサンフランシスコ支店長の永島雄治の発言によれば、「上海へは従来「ダラー」ノ手ヲ経テ送リタリシモ是レ我々ノ手ニ於テ船舶ノ操縦ヲ為シ得サリシ為メナリシ、今日ニテハ「ダラー」ハ此取扱ヲ為サス、我上海支店ト「チャイナ、エキスポート、インポート、コムパニー」二店ニ過キサレハ「ダラー」ハ何等勢力ナキ有様ナリ」と、上海市場における三井物産と米系商社の競合の実態が明らかにされ、さらに「此商売ハ支那ニ対シテハ有望ニシテ、甲谷他、孟買モ販売ノ道ヲ開キ得タルト同時ニ今後我々ノ勢力ヲ伸ハスコトモ望アルヘシ」と米材商売が中国からカルカッタ、ボンベイに拡大していく可能性のあることをも示唆していた。
(跡見学園女子大学教授/立教大学名誉教授/近代日本経済史)