物産各支店の特色を示す資料
1986年夏、アメリカ国立公文書館スートランド分館(現、カレッジパーク分館)を初めて訪問し、接収された三井物産米国支店の資料をざっと見て、各支店の考課状や決算書類、本店と支店、支店間の通信書類などが膨大に残されていることを確認した。帰国後、当時三井文庫の研究員だった春日豊氏に、支店の文書、日常業務を記す資料は文庫にはいうまでもなく、日本にも存在しないだろうという助言を得て、以後スートランドに通うことになった。
接収資料をもとに、商社のまさに最前線における活動と、各支店の物産の中での位置づけ、役割を明らかにしようと努めた。そのためには、在米店だけでなく世界各地の支店やその配置の特色を前提としなければならず、その課題は、文庫に所蔵されている事業報告書などの資料によらねばならなかった。それらには店別・商品別取扱高は記されているが、損益までは記されていない。しかし接収資料には、間接経費も割り振った商品別・取引単位別の詳細な損益が計算されていた。
文庫の資料を改めてみると、1912年下期から15年下期までの7期について、店別商品別の詳細な取扱高と損益をまとめた長大な表が残されていた。
この表を含む「支店長会議関係諸表」(物産400)は、1916年に開催された第4回支店長会議のために作成された資料など、いくつかの表を合綴したものである。その中には第一次大戦が各支店の各商品取扱高や利益にどのような影響を与えているかを探ろうとする意図で作成された表も見られる。これらの表により、第一次大戦前の各支店の特色、位置づけを知ることができるのである。
支店の役割を示す表現として仕入店・販売店などの区別があるが、独立性の強い物産各店、また店を預かる支店長にとっては、取扱高と利益を如何に挙げるかが大きな課題であった。安定的に利益を挙げ得る商品群を確保し、その利益をもとに損失覚悟で取扱商品を拡大していった支店活動をみることができる。
(横浜開港資料館館長/國學院大学客員教授)