三井文庫の古地図資料
三井文庫には、文書資料に加えて、古地図資料も数多く所蔵されている。地図史の中で画期となるような地図も多数あり、先学たちの研究の中に、「三井文庫本」「三井文庫所蔵図」といった文言はあふれかえっている。
私も、地図史研究の末席から、出版地図の系譜を改めて検討する作業をおこなうなかで三井文庫所蔵資料に触れ、近年、新たな発見をいくつかすることができた。
例えば、江戸時代中後期の出版日本図の頂点に君臨した長久保赤水による日本図およびその亜種図の系譜についてである。三井文庫内には赤水日本図やその系統図が20点余り所蔵されている。それらと茨城県高萩市歴史資料館に寄託される長久保赤水関連資料群にある地図資料とを詳細に比較すると、これまで知られていなかった異摺のあることが明らかとなった。中でも寛政3年版『改正日本輿地路程全図増修定本』(C501-25)は、赤水資料にある2枚の寛政3年版のいずれとも異なっており、貴重な発見である。同じようなことは、天保4年版(C501-31)においても言うことができ、天保4年版の異摺が初めて確認された。
こういった異摺を見つけるためには地名の微細な違いや、流路表現の微妙な変更を探す必要がある。逆に言えば、そのような微細な修正を作者や板元がおこなっていたということであり、そこに地図に対する販売上の価値がどのあたりに置かれていたかを読み解く鍵があるわけである。
膨大にある所蔵地図資料の中にはまだまだ貴重な資料も眠っていることだろう。そのような資料に巡り合えることを願いつつ、今後とも機を見て三井文庫に通い続けたい。
(京都府立大学)