戦時から大合同までの三井物産を知るために
三井物産や三菱商事などの総合商社を対象として経済史・経営史研究に携わる筆者の現在の関心は、戦間期の商社間競争を起点として高度成長期における十大商社体制の形成過程を描くことにある。わけても戦時および敗戦直後は、その重要な画期であるものの、研究に利用できる資料は必ずしも多くない。近年の商社史研究を質量ともに引き上げた米国や豪州の在外日系企業接収記録は、1941年12月8日が下限なので、それ以降の分析には利用できない。また、三井文庫所蔵の三井物産資料には、この期間の記録も残されているが、未公開扱いで一般の研究者には閲覧できない(2016年秋から部分的に公開が開始された)。
この不足を補うのが、古書市場に流通する資料である。本項で紹介する三井物産社員会「三井物産株式会社職員会第一回代議員会議事速記録」(1946年、D421-87-14、筆者寄贈)は、その一つである。ガリ版刷りを綴じたこの資料は、1946年2月に開催された職員会第1回代議員会の議事を纏めたもので、1日目(157頁)と3日目(162頁)の2冊が残存している。代議員会では、年齢層別に選出された代議員30名が、職員会の経営参加、給与・待遇の改善、引揚者・戦災者に対する救済措置などを議論している(拙稿「第二次世界大戦直後における三井物産の女性従業員」(『アジア太平洋討究』22号、2014年)。存続の危機に直面した当時の三井物産の雰囲気を伝える貴重な資料である。
インターネットの発達によって古書市場での資料「発掘」は、以前よりも格段に容易となった。三井物産「第二回(昭和22年)部店長会議録」(1947年、D421-87-13、鈴木邦夫氏寄贈)や三井物産人事部「昭和十九年度特別職員録」(1944年、大島久幸氏所蔵)の「発掘」は、その重要な「成果」の一例である。何か新しい資料はないか。そんな思いで検索窓に「三井物産」と入力してネット上を博捜する毎日である。
(専修大学)