クモの巣図について
三井文庫には膨大な文書が所蔵されているだけではなく、多数の絵図も架蔵されている。
この絵図の代表的なものに一般にクモの巣図と呼ばれる「万治年間江戸測量図」がある。クモの巣図と名付けられたのはこの絵図がクモの巣状に描かれているためである。実際は直線が多数引かれてクモの巣状を呈している。この直線は測量線である。測量した地点の方位と距離を正確に図面に描いている。こうした絵図を分間絵図という。このクモの巣図は明暦の大火直後の江戸を測量したもので、初期の江戸の実態がわかる貴重な絵図ということになる。クモの巣図を作成したのは幕府の大目付北条氏長である。氏長は西洋流の測量法である分間絵図の作成法を学んでいた。この測量法が伝わってきたのは近世初頭である。これを学んだ氏長の門下から元禄時代の代表的な絵図作者である遠近道印こと後に富山藩医となった藤井半智が出ている。彼は寛文10年から13年にかけて「新板江戸大絵図」を作成して刊行しているが、これは明暦以降の江戸の拡大地について測量し、クモの巣図を補訂したものである。さらに、彼は元禄2年に縮尺を替えて幾つか江戸図を作成出版している。この元禄の絵図は大変な好評をえてその後も出版されている。
(富山大学名誉教授/近世史)