外国為替金融の勉強に取り掛かった頃
三井文庫にせっせと通っていたのは、40年ほど前のことであった。戦前期日本の金融市場や金融政策を主たる研究フィールドとしていたのだが、ぼちぼちと勉強を続けていくなかで、自分の問題関心はそれまでの国内金融から国際金融に徐々に移っていった。しかし、当時は、この領域はほとんど未開拓で、国内の先行研究はほとんどなかった。また、戦前の外為経理実務についても、まったくといってよいほどわからなかった。このため、横浜正金銀行および戦後の東京銀行で外為経理を担当された方のお宅に半年ほど通って、記帳や仕訳の具体的な手法について教示を受けた。また、大蔵省財政史室、日本銀行特別調査課、外務省外交史料館などで、外為銀行や商社関係の資料の発掘に努めた。三井文庫訪問もその一環で、三井物産や三井銀行の一次資料の閲覧を行った。時間をかけて読んだのは、三井物産『支店長会議議事録』や『支店長会議資料』であったが、ここでは、三井銀行『報知付録』(銀行6)をとりあげたい。この資料を詳しく見ることで、当時の三井銀行の外国営業部・外国支店の営業の内実を知ることができた。とりわけ、上海支店の営業実態が、貿易金融業務というよりは外為売買、外為操作によるものであることを明らかにすることができた。また、営業報告書への外為経理の記載基準が、戦前期の主要外為銀行間で統一されておらず、営業報告書記載データの単純比較はできないことも明らかとなった。詳しくは、拙著『日本の対外金融と金融政策』44-45頁の注を見て欲しいが、三井文庫での資料発掘が、こうした発見の手がかりとなったことは強く記憶に残っている。
(大妻女子大学学長/金融史・国際金融論)