幕末期における輸入染織史料
三井家は、近世の長崎貿易において中野用助の名前で5ヵ所本商人に加わっていた関係で、三井文庫には長崎貿易関係史料が多数所蔵されている。筆者は学生時代より近世の長崎貿易、特に日蘭貿易を中心に調査・研究を続けているが、今までに数多くの三井文庫所蔵史料を採訪させて頂いた。三井文庫は参考図書も充実しており、今回の報告では参考図書として所蔵されている「差出目利帳」(D423-54)を「私の一点」として紹介させて頂きたい。
本史料は裏表紙に「小西平兵衛」と記されていることより、大坂の仲買仲間である唐小間物屋小西平兵衛のもとに残されたものと考えられる。横帳で298丁に及ぶ大部の史料である。扉に「嘉永五年 子正月吉日 差出 見帳 切本控」とあり、嘉永5年(1852)より安政3年(1856)までの差出帳(唐船・蘭船の輸入品リスト)・見帳(各輸入品の入札から落札までを記す商人作成の史料であるが、本史料には落札結果は記されていない)・切本(舶載裂を貼り込んだ反物類の見帳であるが、本史料にも落札結果は記されていない)が合綴されたものである。本史料の差出帳には全品目が記されているリストもあるが、「銀札賣之内、反物計書抜」との記述が見られるリストがあり、反物(染織類)の取引に注目して作成されていることがわかる。見帳に関しても、「丹通」や「毛氈」などの記載が多く、さらに、切本は各反物名のもとに実物の裂を貼り付けたものである。
このように、「差出目利帳」は嘉永5年から安政3年にかけて、唐船・蘭船によって輸入された主に反物(染織類)に注目して作成された史料であり、長崎貿易における商人側の落札前段階の実態を知ることができる貴重な史料である。本史料は幕末期における長崎貿易において、特に日本に輸入された外来の染織を明らかにする掛け替えのない実証史料ということができる。
(鶴見大学教授/近世対外関係史)