私の会計史研究の始まり
300冊以上ある三井文庫所蔵の一連の『大元方勘定目録』の半数以上に目を通してきたが、私にとって最も忘れられない『大元方勘定目録』は、『宝永七年寅正月より七月十四日迄大元方勘定目録』(続2855)である。それは私が初めて三井文庫で閲覧した史料であり、今から27年前に遡る。
当時の私は大学院進学を決めたばかりの大学4年生で、卒業論文執筆に取り組んでいた。会計史をテーマにするのであれば三井家の『大元方勘定目録』を取り上げたらどうかという指導教授の薦めで、『大元方勘定目録』を閲覧するために三井文庫を訪れたのである。その時、初めて閲覧した『大元方勘定目録』が『宝永七年寅正月より七月十四日迄大元方勘定目録』である。
その時の驚きというか感動は今でも忘れられない。今でこそ『大元方勘定目録』は現物を閲覧することはできないが、当時はマイクロフィルム化される前で現物を閲覧できた。それまで私は博物館などで古文書を目にすることはあったが、現物を手に取って閲覧したのは初めてだった。『大元方勘定目録』は虫喰いだらけで、めくるたびに紙が破れてしまわないかひやひやした。同時に『大元方勘定目録』を通じて、200年以上前の人々が帳簿に取引を記録する様子が目の前にある光景のように想像できて、感動したのを覚えている。そして、史料に直接触れることで、そこに書かれている内容を読み解くだけでなく、当時の人々の息づかいを感じ取ることこそが歴史研究なのだと思った。
『宝永七年寅正月より七月十四日迄大元方勘定目録』の閲覧によって、真の意味での私の会計史研究が始まったのである。
(嘉悦大学教授/日本会計史)