『第一稿本三井家史料』と『三井の縁故社寺』
本稿の依頼を受けて11月上旬、久し振りに上高田の三井文庫を訪ねた。文庫入口の2本のメタセコイヤの古木はまだ青々としていた。狭い閲覧室の棚には、いつでも自由に取出して閲覧できる『第一稿本三井家史料』『三井事業史』『三井文庫論叢』などの他に拙著『三井の縁故社寺』も置かれている。この日の私の訪問の目的は、『第一稿本三井家史料』作成の経緯を調べることだったが、古るい馴染の司書永井伴子、大塚陽子さんらが親切に手伝ってくれ、心温る思いであった。
前記拙著は、故北家高公さんの熱心な慫慂もあり、三井不動産総務部長時代に起稿し、15年の歳月を費し、平成7年三井建設会長のとき三友新聞社より出版したものである。幸い北家からはバイブル扱いをされ、今日の三井グループ各社と三井家の菩提寺洛東真如堂との深い絆の来歴を伝える唯一の書として珍重されている。
その拙著作成に当って、三井文庫史料の中で最も役立ったのが外ならぬ『第一稿本三井家史料』84冊であった。その中には家祖高利以来三井家各家歴代の縁故社寺との係りの一部が簡明に記録されていた。『三井文庫・沿革と利用の手引』によれば、三井家の修史事業は、明治24年2月に始り、明治36年三井本館内に「三井家編纂室」が設けられ「三井家史料」の編纂に着手。明治40年には、三上参次の指導の下、総勢15名ほどで三井十一家歴代伝記史料編集に本格的に取り組み、明治42年9月の三井家遠祖高安三百回遠忌に合わせ『第一稿本三井家史料』84冊が完成したものという。これが現在閲覧室に公開されているものである。
私はこれらの『第一稿本三井家史料』から得た史実も参考としつつ、すべての三井家の縁故社寺に足を運んで、その実態を調べ記録したのである。そこには新しい発見もあり、その後は忘れ難い数々の感動的出来ごともあった。
(元三井建設㈱社長)