三井家と牧野成貞を結ぶ史料
私は平成17年(2005)より三井文庫を利用させて頂いている。当時、修士論文の執筆準備に向けて頻繁に通っていた。私は、綱吉政権期に新興勢力として台頭した側用人牧野成貞と三井家について、両者が幕府御用に関してつながりがあったことや、その後、三井家が牧野家に大名貸を行うことに関心があった。三井家と牧野家のつながりについては、中田易直氏の『三井高利』(吉川弘文館、1959年)や『三井事業史』本篇第1巻(三井文庫、1980年)などに記述がなされている。簡単に紹介すると、牧野成貞は囲碁を打つ関係で幕府御碁所の本因坊道悦と交流があった。牧野成貞は道悦から三井家が繁盛している話を聞いて興味を持ち、まず牧野家の呉服御用として三井家を取り立てた。牧野成貞は三井家の清廉実直な働きぶりに信用を深め、幕府の呉服御用に推挙をした。という内容である。しかし、どの史料をもとに記述されているのか不明であった。そこで、三井文庫の研究員や司書の方に相談をして、何点か史料を探して頂いた。その中に「宗寿居士由緒書」(北4-2)があった。この史料は、享保14年(1729)に三井高利(宗寿)の4男高伴が著したもので、三井家が幕府御用を勤める様子が詳しく書かれていた。本因坊道悦の話はもちろんのこと、牧野成貞の取計らいで三井高平(宗竺)を老中4人(大久保忠朝・戸田忠昌・阿部正武・土屋政直)にお目見えさせた記述など、史料に書かれている内容すべてに感動した。その後、修士論文も無事提出し、「宗寿居士由緒書」を使用した内容を「三井家の発展と大名貸」(『宮崎県地域史研究』第24号、2009年)に発表することができた。三井文庫には膨大な史料が所蔵されている。史料から一つでも多くのことを明らかにできるよう、これからも自身の研究促進のために閲覧を続けていきたい。
(埼玉県立文書館学芸員)