百貨店史研究と三越の職員名簿

今では百貨店史研究はひとつの分野として定着した感もあるが、一次資料の利用可能性という点では大きな限界を抱えている。私が院生の頃に百貨店の通信販売について検討しようとした際にも、各店が発行していたカタログ類や、商業雑誌の紹介記事などで断片的なイメージをつくることはできたが、通信販売部門の売上高といった基本的なデータすら得られずに苦労していた。

そうしたなかで、とある論文を通じて三井文庫が三越の職員名簿を所蔵していることを知り、これを利用することで部門別の店員数の変遷から百貨店通販の盛衰を裏付けることができた。三井文庫には基本的に三越関係の資料はほとんど入っていないのだが、職員名簿については明治期から昭和初期のものまで、ある程度の通時的変化を追える形で所蔵されている（A091-3、A091-3-2、A091-4-1、A091-4-2、A091-4-3、A091-4-4、A091-4-5）。

通信販売との関係に限らず、部門別の店員数がどう変化していったのか、女性店員はどの部門にどう増えていったのか、個々の店員がどのようなキャリアを積んでいったのかなど、職員名簿を使って検討できることはまだまだ多く残されているように思う。一次資料の利用可能性に大きな限界のある現状では、三井文庫が所蔵する三越の職員名簿の存在は貴重である。

（北海道大学大学院経済学研究院准教授）