『三池鉱業所沿革史』について-炭鉱史・財閥史の宝庫-
『三池鉱業所沿革史』は、全66巻からなる、それ自身で体系的な史料である。それに加えて、『三池港務所沿革史』10冊、『三池製作所沿革史』18冊が直接三池炭鉱傘下の事業所の歴史として編纂されている。関連するものに、『三池刑務所沿革』3冊がある。
さて三井鉱山会社は、みずからの創業を三池炭鉱の払下げを受けた1889年ととらえ、1939年3月『三井鉱山五〇年史』の編纂事業に着手したのである。『三池鉱業所沿革史』は、その事業の一環として編纂されたものである。『三井鉱山五十年史稿』も22冊からなるもので、両者は三池炭鉱の歴史を理解するうえで一体不可欠の関係にある。しかも、『三井鉱山五十年史稿』はみずから「三池炭鉱を政府より引継ぎたる当時よりの歴史的沿革は三井家奉公の私史にあらずして我工業史の重要なる部分を綴ったものと謂ふべきである」としてその意気込みを語っている。したがって、三井鉱山傘下の他の事業所の沿革史と比較して、三井鉱山が全力を注いで編纂したことが知られるが、その質・量ともに優れた内容となっている。
『三池鉱業所沿革史』全66巻は、他の会社の社史と比較しても独特の編成を示している。首巻(凡例・目次・年譜)と第一巻前史(2巻)を除くと、三池鉱業所各課別の編成となっていることである。それは、以下のようである。第二巻秘書課(11巻)、第三巻採鉱課(11巻)、第四巻機械課(14巻)、第五巻電気課(1巻)、第六巻保安課(4巻)、第七巻労務課(11巻)、第八巻医院(1巻)、第九巻庶務課(8巻)、第一〇巻(会計課)、第一一巻倉庫課(1巻)。
いずれも、経済史、経営史、技術史、労働史の研究にとってきわめて豊富な史実を提供しており、基礎的重要性をもつ。なかでも、第三巻採鉱課、第四巻機械課、第七巻労務課、第九巻庶務課は、技術史、労働史、経営組織を実証的に研究するうえで、前述した『三井鉱山五十年史稿』の抱負を追求して叙述が展開されており、圧倒される部分である。三池炭鉱が閉山となっても、なお史料として輝きを放っている。
(追手門学院大学名誉教授)