「手代申渡元手之控 壱番」
近年、終身雇用や年功序列等に代表される「日本的雇用システム」に揺らぎが生じてきています。一つは、正社員の長時間労働の問題であり、もう一つは、非正規労働者の増加と正社員との労働条件の格差の問題です。
このように何かと評判の悪くなってきた「日本的雇用システム」ですが、一方で、日本における経済成長に大きく貢献してきたことは周知の事実です。
私は、この「日本的雇用システム」のルーツは、江戸時代の大店の手代の処遇にあったと考え、研究(道楽ですが)を進めています。
そして、今、「元手」(現在の「退職金」)の支給実態について、標記の史料により検討を加えています。
したがって、この史料は、今、私が注目をしている一点ということになります。「元手」に関しては、手代に対する報酬である「小遣」、「役料」、「年褒美」、「割褒美」と異なり、残念ながら、支給に関する規定は見つかっていません。
したがって、「元手」に関しては、その支給実態から事実を解明するしか方法はありません。
この史料によると「元手」は金または銀で支給され、役職者であるか否か、役職者であってもその地位の上下により、その支給額は大きく異なっており、現在の退職金と同じような仕組みとなっていたと考えられます。
現在の退職金は、一般的に長期勤続を奨励するため、一定年数勤続した場合に支給されます。
この史料による「元手」の支給で注目すべき点は、事例は多くはありませんが、手代になる前の「子供」の時点で辞めた者に対しても支給された例(元文元年(1736)の渡辺孫助、元文2年(1737)の服部源次郎(角前髪)など)や手代とは異なる雇用形態であった「下男」にも支給された例(元文元年(1736)の権助)、書類の執筆のために有期雇用された「書札役」にも支給された例(享保15年(1730)の上田市兵衛など)もあり、この史料の記載内容に興味が尽きることはありません。
(フリーライター)