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安岡先生と「使用人給与制度私議」

千本 暁子
安岡先生と「使用人給与制度私議」
臼井喜代松「使用人給与制度私議」(井交138)
安岡先生と「使用人給与制度私議」

1978年4月に大学院に進み、安岡重明先生の指導を受けるようになりました。女性労働史研究を志しての進学でありましたが、安岡先生は「女性労働史については指導できないが、使用人制度の研究を通して、研究の仕方を指導する」という方針で、東京で学会等があるときには、必ず三井文庫や国立国会図書館に行き、とにかく史料を見るようにと言われました。そしてご自分の史料収集のための専用ノートをお見せになって、私にも作るように指示しました。先生のノートには、史料名がびっしりと書き込まれており、やっぱり「史料の鬼」なのだと思ったことを覚えています。

使用人制度という漠然としたテーマで史料をあれこれと見ていたところ、次第に中上川彦次郎の改革に関心を持つようになりました。中上川の改革の内容や、彼の死後の使用人制度の行方についても調べていきました。そうしたときに手にしたのが臼井喜代松「使用人給与制度私議(明治36年7月)」(井交138)でした。1981年7月23日のことです。この史料は安岡先生との共著で『同志社商学』(第35巻5号、1984年2月)に紹介しています。

臼井は、かつては三井家と奉公人は主従の関係にあり、その間には情誼があったが、子飼い制度が全廃され情誼は薄弱となり、主家と使用人の関係は、主従の関係五分、雇者被雇者五分といえる、と述べています。「自営業主」を養成する奉公人制度から、「雇用者」として雇い入れる使用人制度への転換期に直面した問題への取り組みを示す、興味深い史料です。今でも時々読み返しながら、この史料を使って論文を書こうと考えています。

安岡先生は、三井文庫を通して私を研究者として育ててくださいました。三井文庫は私の原点でもあります。

(阪南大学)

安岡先生と「使用人給与制度私議」
臼井喜代松「使用人給与制度私議」(井交138)
安岡先生と「使用人給与制度私議」