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肥料流通史研究と三井物産『業務総誌』

坂口 誠
肥料流通史研究と三井物産『業務総誌』
三井物産「業務総誌」(川村17)
肥料流通史研究と三井物産『業務総誌』

筆者は近現代日本の肥料流通史研究を専門としている。「戦間期日本の硫安市場と流通ルート-三井物産・三菱商事・全購連を中心に-」(『立教経済学研究』第59巻第2号、2005年10月)を執筆したときに用いたのが、三井物産の『業務総誌』である。一部欠けている期もあるが、大正9年度上半季から昭和21年下期までのものが、三井文庫に残されている。

『業務総誌』には、季間相場はもちろん、市況とそれに対する三井物産の対応が記録されている。たとえば、この論文では直接の引用等はしなかったが、上記の大正9年度上半季における硫安市場については、

本品ハ英米両国ヨリノ供給ニヨリ僅カニ内地産ノ不足ヲ補充シ居リタルニ偶々十一月ニ至リ英国カ既約品ノ輸出特許ヲ取消シタル為メ市況俄然爆発シタルモ其後英国輸出制限緩和ノ入電ト米価並ニ生糸ノ崩落大豆粕市場ノ紛糾ニ加フルニ金融梗塞一般財界混乱ノ結果市価概ネ四割方奔落シ商内途絶ノ悲境ニ沈倫シタリ此間ニ処シテ当社ハ取引先ノ選択ニ注意シ堅実ナル商内ニ終始シタル為メ約定品ノ引渡代金ノ回収等圓満ニ完了スル事ヲ得タルハ特筆スヘキ事ニ属ス(三井物産「業務総誌」川村一七)

と記載されていて、第一次世界大戦終結期における硫安市況と三井物産の活動を生々しく伝えている。

この論文は当時所属していた立教大学経済学部の紀要に掲載されたものであるが、この中で指摘したことをヒントにして学会誌に論文を発表された方もいらっしゃると聞き、あらためてこの史料、そして閲覧の際にお世話になった永井さんに深く感謝している。

(東洋大学経営学部経営学科)

肥料流通史研究と三井物産『業務総誌』
三井物産「業務総誌」(川村17)
肥料流通史研究と三井物産『業務総誌』