故團男爵伝記編纂資料
本資料は、三井合名会社理事長であった團琢磨の伝記である『男爵團琢磨伝』(故團男爵伝記編纂委員会編、1938年、上下巻)のもととなった談話、および座談会筆記録である(鉱50稿本510~558)。筆者は、大学院生時代に北海道炭礦汽船株式会社(北炭。團は同社の会長も兼ねていた)の研究をしていた頃に、北炭と三井の関わりについての記述を求めて、團当人や、北炭関係者(井上角五郎、磯村豊太郎、古田慶三ら)の談話を閲覧し、刊本の伝記や社史ではみつけられなかった事実を発掘することができた。ただ、筆者が利用したのは、この資料群のほんの一部である。本人の談話速記は六分冊に及んでおり、談話については家族、益田孝、牧田環などはもとより、南条金雄・山本条太郎ら三井物産関係者、山田直矢・尾形次郎ら三井鉱山関係者、上述の北炭関係者や、鄕誠之助・木村久壽弥太ら財界関係者、さらには清浦奎吾・長岡半太郎・田中舘愛橘といった面々にまで及んでいる。いかに、この伝記作成に周到な準備がなされていたかがわかる。資料的な有用性については言うまでもないが、一般にはあまり企業家として顧みられることの多くない(例えば、近年、企業家の伝記が多く刊行されているが、團に関するものは非常に少ない。高等学校日本史教科書の記述も、血盟団事件に限られる)團琢磨という企業家の「大きさ」を知る上でも、格好の資料群であるように思う。
(九州大学)