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三井物産会社 Ledger

粕谷 誠
三井物産会社 Ledger
三井物産「Ledger」(物産746)
三井物産会社 Ledger

三井銀行に関する論文を発表した後、三井物産についてやってみることとし、まずは先収会社から三井物産への勘定の引き継ぎについて調べてみようと、三井文庫を訪ねた。10時から先収会社の帳簿を見はじめたが、三井物産との関連は見いだせず、早々にあきらめ、漫然と三井物産の勘定の推移をみていた。しかし新たな発見もなく、そろそろ閲覧時間も終わりとなる頃となった。順調に利益が蓄積されていたので、これで資本金を払い込んだのだなと思い、どうやって1893年に資本金100万円を払い込んだのかと、閲覧室に備え付けの『三井事業史』をみてみた。すると現金で払い込まれたと書いてある。巨額の不良債権処理がおこなわれたに違いないと考え、これは誰も指摘していないから、それを明らかにすれば論文となると大喜びした。

あとは不良債権処理の過程を記した資料を探すだけである。ところが何回か三井文庫に通って、文字通り片っ端から資料を出してもらったが、みつからなかった。いよいよここにでていなければ、このテーマはあきらめよう、と思って最後に出してもらったのがこのLedgerであった。答えはすぐに出た。4頁の第一積立金勘定のところに、不良債権処理が明確に記されていた。これで論文が書けると小躍りした。次からはその過程を丁寧に調べていけばよく、確実にゴールに近づいていく充実した時間となった。

三井物産から三井家に資産処理の過程を記した資料が提出されていれば、ずっと前に誰かがみつけて、論文を書いていたであろう。また三井物産の商品取引を明らかにしようとこの資料を見た人にとって、自己資本の数字は意味のない数字で、着目されなかったのであろう。こうした偶然から4頁は誰の目にもとまらなかったのだろうと思われ、私にみつけられるのを一世紀の間待っていたと錯覚させてくれる資料である。

(東京大学)

三井物産会社 Ledger
三井物産「Ledger」(物産746)
三井物産会社 Ledger